2016.11/06 [Sun]
ワンライ遅刻分
ワンライ遅刻ですが、ちょっと思い付いたので。
【第117回フリーワンライ】
お題:ほんの数cm
ジャンル:鬼滅 カプ無し
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
↓
未推敲。一発書き。
乾いた畳の上に汗だくになった体をドサリと横たえる。四肢は鉛のように重く、瞼は今にも閉じそうだ。
連日の過酷な修行に炭治郎は疲れ果てていた。
無事帰ってこられるのが奇跡ではないかと毎日思っている。そんな修行を毎日繰り返している。もう限界だと思っても、翌日にはまたそれを超えることを要求される。
出来ることならこのまますぐにでも眠ってしまいたい。
(でもこんな泥だらけの体で布団に入ったら、鱗滝さんの布団を汚してしまうかもしれない)
この家は自分の家ではない。修行をしてくれている鱗滝さんの家だ。弟子には弟子としての礼儀作法があろう。
(……でも、動けない)
今にも閉じてしまいそうな瞼をぐぐ、と押し上げた炭治郎の眼に、奥で眠る女の姿が映る。
「……禰豆子」
ずるりずるりと身を引きずって、炭治郎は眠っている妹、禰豆子の傍へと近寄った。
間近で見る禰豆子の顔はいつもと変わりない。昨日と、一昨日と、一週間前と、それよりもっと前と変わらない。
……変わらず、眠ったままだ。
呼吸している禰豆子の息を確かめて、炭治郎はほっと安堵の息を吐いた。
しかしすぐに眉根を寄せる。
生きていることは嬉しい。
けれど、起きない。起きてくれない。禰豆子はずっと眠り続けたまま。
いつ起きるのか。今日は起きてるんじゃないか。帰ったら立って迎えてくれてるんじゃないか。そんなことを何度考えただろう。
何度考えても、期待しても、夢は現実にはならなかった。
「禰豆子」
呼んでもぴくりとも動かない。
このまま動かないままなんじゃないか。
いつか呼吸まで止まってしまうんじゃないか。
そんなことももう何度考えただろう。
そのたびに馬鹿な考えは止めろと首を振る。そんなわけ無い。禰豆子は大丈夫。大丈夫だ。言い聞かせるように何度も心の中で繰り返す。
母は逝った。弟も、妹も、禰豆子以外の家族はみんな逝ってしまった。
残ったのは禰豆子だけ。たった一人残ってくれた、大切な大切な自分の家族。
例え鬼になってしまったとしても、それでも禰豆子が家族であることには変わりない。
失いたくない。禰豆子を失いたくない。もう家族を失いたくはない。
自分は長男だ。残った家族を守る責任があるんだ。その一心で、辛い修行にも耐えている。
禰豆子がいなくなったら、耐えられる自信なんて無い。
「禰豆子」
けれど何度呼び掛けても、禰豆子は目を覚ます気配がない。ただじっと動かずに眠り続けている。
「禰豆子」
たった数センチ。ほんの数センチでいいから瞼を開けてくれたなら、安心も出来るのに。
生きていてくれたと胸をなで下ろして、何の懸念もなく修行に出ることが出来るのに。
届かない声は、動かない禰豆子の瞼にすいこまれていく。
それでもやっぱり、明日も名前を呼んでしまうのだろう。
どれだけ無駄に終わろうとも。どれだけ同じことを繰り返そうとも。
禰豆子だけが、今の自分が明日も辛い修行を続ける理由なのだから。
そんなことを思いながら、炭治郎は眠りの沼へと意識を手放した。
多分眠ってしまった炭治郎を見て、鱗滝さんは布団を掛けてくれるはず。
【第117回フリーワンライ】
お題:ほんの数cm
ジャンル:鬼滅 カプ無し
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
↓
未推敲。一発書き。
乾いた畳の上に汗だくになった体をドサリと横たえる。四肢は鉛のように重く、瞼は今にも閉じそうだ。
連日の過酷な修行に炭治郎は疲れ果てていた。
無事帰ってこられるのが奇跡ではないかと毎日思っている。そんな修行を毎日繰り返している。もう限界だと思っても、翌日にはまたそれを超えることを要求される。
出来ることならこのまますぐにでも眠ってしまいたい。
(でもこんな泥だらけの体で布団に入ったら、鱗滝さんの布団を汚してしまうかもしれない)
この家は自分の家ではない。修行をしてくれている鱗滝さんの家だ。弟子には弟子としての礼儀作法があろう。
(……でも、動けない)
今にも閉じてしまいそうな瞼をぐぐ、と押し上げた炭治郎の眼に、奥で眠る女の姿が映る。
「……禰豆子」
ずるりずるりと身を引きずって、炭治郎は眠っている妹、禰豆子の傍へと近寄った。
間近で見る禰豆子の顔はいつもと変わりない。昨日と、一昨日と、一週間前と、それよりもっと前と変わらない。
……変わらず、眠ったままだ。
呼吸している禰豆子の息を確かめて、炭治郎はほっと安堵の息を吐いた。
しかしすぐに眉根を寄せる。
生きていることは嬉しい。
けれど、起きない。起きてくれない。禰豆子はずっと眠り続けたまま。
いつ起きるのか。今日は起きてるんじゃないか。帰ったら立って迎えてくれてるんじゃないか。そんなことを何度考えただろう。
何度考えても、期待しても、夢は現実にはならなかった。
「禰豆子」
呼んでもぴくりとも動かない。
このまま動かないままなんじゃないか。
いつか呼吸まで止まってしまうんじゃないか。
そんなことももう何度考えただろう。
そのたびに馬鹿な考えは止めろと首を振る。そんなわけ無い。禰豆子は大丈夫。大丈夫だ。言い聞かせるように何度も心の中で繰り返す。
母は逝った。弟も、妹も、禰豆子以外の家族はみんな逝ってしまった。
残ったのは禰豆子だけ。たった一人残ってくれた、大切な大切な自分の家族。
例え鬼になってしまったとしても、それでも禰豆子が家族であることには変わりない。
失いたくない。禰豆子を失いたくない。もう家族を失いたくはない。
自分は長男だ。残った家族を守る責任があるんだ。その一心で、辛い修行にも耐えている。
禰豆子がいなくなったら、耐えられる自信なんて無い。
「禰豆子」
けれど何度呼び掛けても、禰豆子は目を覚ます気配がない。ただじっと動かずに眠り続けている。
「禰豆子」
たった数センチ。ほんの数センチでいいから瞼を開けてくれたなら、安心も出来るのに。
生きていてくれたと胸をなで下ろして、何の懸念もなく修行に出ることが出来るのに。
届かない声は、動かない禰豆子の瞼にすいこまれていく。
それでもやっぱり、明日も名前を呼んでしまうのだろう。
どれだけ無駄に終わろうとも。どれだけ同じことを繰り返そうとも。
禰豆子だけが、今の自分が明日も辛い修行を続ける理由なのだから。
そんなことを思いながら、炭治郎は眠りの沼へと意識を手放した。
多分眠ってしまった炭治郎を見て、鱗滝さんは布団を掛けてくれるはず。
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