ワンライ挑戦です

【第117回フリーワンライ】
お題:黙らせる、ほんの数cm
ジャンル:二次創作 #ロイアイ
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


東方司令部時代の二人です。甘さ控えめ。
ほぼ50分くらいかかったので推敲してません。
それでも大丈夫な方のみどうぞ。

※一発書きです。未推敲。





 他には誰もいない二人きりの執務室。
 それだけ聞けばロマンチックにも思えるが、実際はそう上手くはいかないものだ。
 ロイ・マスタング中佐は深い溜め息を吐いた。
 目の前にいるのは、険しい顔をした補佐のリザ・ホークアイ少尉。彼女の口からお小言が出始めてもうかれこれ十五分になる。
 原因は明日締め切りの書類から逃げ出してこの執務室を留守にしたロイの方。自業自得なのだから長いお説教もおとなしく聞く義務があるのかもしれない。
 そうかもしれないのだが。
(……飽きた)
 ロイは動きっぱなしのリザの唇を眺めて心の中でそう呟いた。
 紡ぎ出されるお小言は全て正論ばかりで、反論の余地はない。休むことなく動き続ける唇に口を挟む隙もない。そもそも挟んだとしても、更に声に含まれる怒りの色が濃くなるだけだろう。それを人は無駄と呼ぶのだ。
 けれどそろそろ勘弁してくれないだろうか。リザのお小言を右から左へ聞き流していたロイは、彼女の唇をいかに止めるかに頭を使い始めた。
(方法が無いわけではない……が)
 とりあえず実行してみるかと、ロイはリザの目を真っ直ぐに見つめる。
「……なんですか?」
 今まで逸らしていた視線を急に合わせてきたロイに、リザは怪訝そうに柳眉を寄せた。
 しかしロイはリザの問い掛けには答えず、無言でリザとの距離を詰める。
「中佐?」
 ますます怪訝そうな顔をするリザにゆっくりと近付いたロイは、その鼻先に自らの顔を接近させた。
「ちゅ……」
 触れるか触れないかという距離で、ロイはようやく口を開く。
「……睫毛」
 囁くように吐息に声を乗せて、ロイはちょんとリザの目元に指をあてる。
「…………はい?」
 近付けた距離を再び離して、ロイはニッコリと笑顔を見せた。
「ついてた。顔に」
 ふっと息を指に吹きかけて、ロイは睫毛を飛ばす仕草をする。実際は睫毛など付いていなかったのだが、こうすると女性ならどれだけ激しくいきり立っていても大抵落ち着くものだ。そう。普通の女性ならば。
 しかし。
「……そうですか」
 それは目の前にいるのが、普通の、いわゆる一般的な女性ならばの話である。
「それは、取っていただきありがとうございます。では話を元に戻しますが、そもそも私はこの書類は明日までだと昨日も申し上げていたはずで」
 止まらない。止められない。お小言はまだまだ続きそうな気配だ。
(やっぱりダメか)
 ロイは肩を竦めて苦笑した。
 通じるとは思っていなかったけれど、ダメ元だと実行してみたのだが、結果は予想通り。
 彼女に普通の女性と同じ反応を期待しても無駄なのだ。だって彼女は、軍服を着ている間は女性を捨てているのだから。女性としての、いや、自分すらも捨てて、リザはひたすらロイに尽くしている。補佐として。一人の軍人として。
 そんなリザを黙らせようだなんて、無駄な考えだったかもしれない。
 そんなことはやる前から解っていたのだけれど。
(無反応というのも、寂しいものだな)
 反応されてもそれはそれで戸惑ったかもしれないが。
 複雑な思いを抱えながら、ロイは真面目な一軍人に最も効きそうな台詞を選び出す。
「わかった。わかったよ、少尉」
「何がですか」
 じろりと睨んでくるリザの視線がロイに突き刺さる。
「私が悪かった。今からすぐに取り掛かるから、今日はこの辺で勘弁してくれないか。時間もどんどん迫ってくることだし」
 ね? と両手を軽く挙げ、ロイは降参の意を示す。素直に謝罪したロイに、リザは溜飲を下げた様子が見て取れた。
「……解りました。申し上げたいことはまだありますが、時間がないことには同意します。私もお手伝いしますので、書類を一部貸してください」
 ようやく止まったお説教に安堵した表情を見せたロイは、すぐに該当する書類を取り出してリザへと手渡した。
「私は自分の机で作業しますが、一人でも今度こそちゃんとサボらずに進めてくださいね」
 部屋を出る際にしっかりと釘を刺していくリザにわかったわかったと頷いて、ロイは机に向かった。


 受け取った書類を自分の机に乗せたリザは、しかしそこに座ろうとはせず、真っ先にトイレへと向かった。
 誰もいない個室に入り、リザは両手で顔を覆い、はあと深い溜め息を吐く。
(……驚いた)
 近い距離。近すぎる距離。あと数センチ近付いてしまえば触れるのではないかという距離。
 思わず、自分がどこまで話したかを忘れそうになった。言いたいことは山のようにあったのに、それが全て吹き飛んでしまいそうなほどの衝撃。
(ずるい)
 あれはずるい。
 こっちがどれほど驚いたかも知らないで。
(いえ、知られても困るのだけれど)
 ロイに悪気がなかったことは判っている。それでも、あんな風に男性はおろか女性とさえほとんど近付いたことのないリザには、あの距離は動揺するには十分なものだった。
 その動揺を知られないように平静に振る舞うのに、どれほど力を使ったことか。
 リザはそっと鼻頭に指を当てた。
 触れた吐息の熱さが今でも思い出せる。
 再会する前、まだロイとリザの関係が弟子と師匠の娘であったときから、ここまで顔を近付けたことなど無かった。
 ここまで動揺するのは、未経験の距離だったからだろうか。
 本当にそれだけだろうか。
(……それだけよ)
 浮かび欠けた疑問を半ば力づくで握り潰して、リザはパンッと軽く頬を叩いた。
「さあ、もう一踏ん張り!」
 このままだと残業は確定だ。へらへらと余裕の笑みを浮かべていたあの上司の仕事が少しでも早く終わるように手伝うのが自分の仕事。
 動揺なんてしている暇はないのだ。
 トイレを出て、リザは足早に執務室へ戻る。
 夜が近付いた空気は、熱の残るリザの鼻先を瞬時に冷やし、熱の記憶をリザの頭から霧散させた。




ピッタリ30分!
うわあ全然甘くなさそうな…
でも動揺するリザさん萌え。

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氷上和奇

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