ワンライ三回目

ようやく風邪も治ってきましたので、久しぶりにワンライに挑戦です。
今回も暗い…。
何だろう。暗いロイアイが好きなんだろうか。いや好きですけど。
とりあえず少しでも救いを出そうとは頑張ってみました。

ワンライとは:企画者様のサイトをご参照ください。

使用したお題:かける(欠ける・掛ける) 世界は輝いた
ジャンル:鋼錬 #ロイアイ。
※注意事項:二次創作NL。全体的に暗いです。
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

推敲は出来ていません。
それでも宜しければ追記からどうぞ。
(後から多少修正を加えることはあり得ます)

※ワンライネタ。一発書きです。





 幼い頃、私の世界は色を持っていなかった。
 誰もいない家。正確には父親がいたのだが、そのたった一人の家族であるはずの父は、私の方を向いてはいなかった。
 そんな誰もいないも同然の家で、独りで家事をして過ごす。
 家事が嫌だというわけではない。父が特別嫌いだったわけではない。
 ただ、何の目的もなく、話す相手もおらず、時間が過ぎていくだけの日々は、まるで霞がかかったようにおぼろげだった。
 世界に付いた色はただの色としてしか認識しておらず、特に感慨が湧くものでもなかった。
 物体はただの物体であり、世界も物体の集合体。私にとってはそれ以上でもそれ以下でもなかったのだ。

 そこに、彼がやってきた。
 半ば強引に父の弟子となったその人は、父だけでなく、私の方を見てくれた。
 父以外の人間を殆ど知らない私は最初人見知りをしていたが、優しく笑いかけてくれる彼に、徐々に懐いていった。

 それからだ。世界が色を持ったのは。
 今までただの物体でしかなかった世界の色が、初めて眩しいものに思えた。
 太陽は明るく、緑は煌めき、空は青く透き通っている。
 今までくすんで見えていた色が、突然輝いて見えた。
 世界はこんなにも輝いていたのか。
 そして私は、そんな世界に生きていたのか。
 それは何て不思議で、そして喜ばしいことなんだろう。
 気付かせてくれたのは、彼だった。

 しかし出会いがあれば別れがある。
 成長し、彼は彼の道を歩むことになった。
 止めることなど出来ない。彼には彼の人生がある。それを私の我が儘で邪魔することなど出来ない。

 解っているのに、彼がいなくなった私の世界はまたくすんでしまった。
 欠けてしまったんだ、と私は自覚する。
 彼の存在が欠けた。それはすなわち、彼を必要としていた私の心が、彼を失ったことで欠けてしまったんだと、そう思った。

 そんな彼と再会したのは、私がたった一人の家族を失った日。
 何の皮肉か、父という存在が欠けたその日に、失ったはずの彼が帰ってきてくれた。
 失った欠片を取り戻すには、代わりに別の何かを失わなければならないのだろうか。
 そんな考えがふと頭をかすめる。
 それでも私は、帰ってきてくれた彼という欠片に縋り付いた。
 それしか、出来なかった。

 再び彼と別れた後、私は彼という欠片を追いかけることを決意する。
 以前と同じように、彼に傍にいてほしいとまでは思わなかった。
 彼の足枷になってまで、自分の穴を埋めようなんて思っていない。
 ただ追いかけることで、私は欠けた部分を塞ごうとしたのだ。
 彼という欠片を追い求めるだけで、世界は彼がいた頃ほどではないにしろ、まだ輝いてくれていた。
 それだけで十分だった。

 けれど二度目の再会を果たしたとき、私の世界は再び色を失っていた。
 視界が霞むほどの砂塵にまみれた世界は、白と黒と、そして赤だけの世界になっていた。
 欠けたはずの彼と再会したというのに、色は戻ってはこなかった。
 彼もまた、私が求めていた頃の彼とは違っていたのかもしれない。
 かつてあんなにも、私が見た世界で一番輝いていたはずの彼の目は、すっかり色を失っていたからだ。


 それから何年もの月日が流れた。
 最近では、ようやく時々ではあるが世界が輝いて見えるようになった。
 しかしその輝きを目にするたび、心がズキンと痛みを覚える。
 それは大切な欠片を失った時に付いた、ひび割れのせいなのかもしれない。

 それでも、欠片は今私の傍に在る。
 もう失わない。もう離さない。彼が私と離れたいと強く望むまでは。
 一度失えば、同じ欠片はもう二度と手に入らない。それを痛いほど知っているから。
 今度失えば、そのひび割れはきっと私の命を奪うほどの痛みになるだろうから。
 彼の存在はそれほどまでに大きなものになっているから。
 だからもう欠けないように、私は全力を尽くすのだ。
 欠けないように。失わないように。

「付いてくるか?」
「何を今更」

 私の世界は、貴方と共に在る。



 * * *



「マスタングさん、緑ってこんなに眩しいものだったんですね」
 ある日彼女が、そんなことを言い出した。
「え?」
 突然何を、と本から顔を上げて彼女の方を見る。
 彼女はよく晴れた空を見上げて、眩しそうに目を眇めていた。
 その顔はとても嬉しそうで、キラキラとしていて。
 輝いているのは君の顔の方だ、と言いそうになった私は、あまりに気障過ぎるとその台詞をぐっと飲み込んだ。

 そんな時が、確かにあったのだ。
 それなのに、彼女の顔からはすっかり光が失われてしまった。
 人形のように動かない表情。鉄面皮という評価を受けてしまった彼女。
 本当の彼女はそんな女性ではなかったのに。

 失わせたのは私だろうか。
 心まで固めてしまったのは私なのだろうか。
 氷に閉ざされた彼女の心を、一気に溶かそうとするときっと割れてしまうだろう。
 だから私は、時間を掛けて彼女の氷が溶けるのを待つことにした。
 傍にいて、ずっと。
 たとえどれほど時間がかかろうとも。


 ようやく最近、彼女は少しずつ表情が和らぐようになった。
 原因となった私が傍にいれば、彼女の氷は完全には溶けないかもしれない。
 何度もそう考えた。
 だから私はそのたびに、彼女に訊ねる。

「付いてくるか?」
 すると彼女は間髪入れずに答えるのだ。
「何を今更」

 失ったものは同じようには取り戻せない。それはよく知っている。
 けれどいつか。
 またいつか、彼女の輝いた顔を見られるようになるだろうか。
 彼女はそんな顔を私に見せてくれるのだろうか。
 淡い期待を抱きつつ、私は彼女を傍に置く。
 彼女が拒否の意思を示さぬ限り。
 私は彼女を見守り続ける。
 僅かながらでも、彼女の顔が輝く瞬間を見逃さないように。



時間ですのでここまでで。
途中PCが止まって真っ青になりました…。
23:30終了。

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氷上和奇

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